掛け軸の部位ごとの名称は?基本の掛け方としまい方も確認
公開日 2024/09/04
更新日 2024/09/04
掛け軸は単純な一枚の紙ではなく、さまざまなものが組み合わされる形で作られています。掛け軸の取り扱いや掛け方などを説明する際には各部位の名称が出てくるので「どこのことを言っているのかわからない」と悩んでしまう方もいるでしょう。
そこで、掛け軸について理解を深めたい方のため、各部位の名称について解説します。この記事を読むことによって各部位が持っている役割や掛け軸の掛け方、しまい方などがわかるようになるので、ぜひ参考にしてみてください。
目次
掛け軸のことをより深く知りたいと考えているのであれば、各部位の名称を確認しましょう。それぞれの特徴や役割も解説していきます。
本紙とは、書画そのもののことです。掛け軸の絵や文字が書かれている中心となる部分です。
料紙(りょうし)と呼ばれる紙が使われているものは紙本(しほん)、料絹(りょうけん)と呼ばれる絹が使われているものは絹本(けんぽん)といいます。
本紙の上下にある横長の裂地が一文字です。上側は上一文字、下側は下一文字と呼ばれます。
一般的には横長の形であり、漢字の「一」の形をしていることから一文字と名付けられました。
金襴(きんらん)のほか、銀欄(ぎんらん)などの裂地が使用されます。掛け軸の本紙を見た際に必ず目に入る部分でもあり、本紙と後述する中廻(ちゅうまわし)を結び役割を持つ部分です。
そのため、他の部分と比較すると上質な裂地が使われます。
本紙の左右にあたる部分です。縦長で柱のように見えます。
本紙の上下の部分のことをいいます。中縁(ちゅうべり)と呼ばれることがあるほか、柱と合わせて中廻しと呼ばれることもあります。
一文字に接しており、一文字の次に上質な裂地が使用されます。デザインの良し悪しにも影響すると言われる重要な部分です。
中廻しの裂地の上下にあたる裂地のことを天地(てんち)といいます。表装でいうところの一番上下の裂地であり、上側が天(てん)、下側が地(ち)です。
上下や地題(じだい)と呼ばれることもあります。
また、である場合は総縁とも呼ばれる部分です。使用される裂地は基本的に無地ではありますが、まれに柄物が使用されることもあります。
柄物が使用される場合もあまり目立たない柄のものがほとんどです。
風帯は飾り紐のことであり、掛軸の上側から垂れている二本の長い飾りです。非常に細い掛け軸の場合は二本ではなく、一本のみとなっていることもあります。
一文字と同じ裂地が使用されますが、仏画表具、二段表具である場合は中廻しと同じ裂地が使われるのが違いです。
通常は上だけ固定された垂風袋(さげふうたい)と呼ばれるものではありますが、略式として下まで貼り付けた押風袋(おしふうたい)もあります。
また、中には、貼り風帯(はりふうたい)と呼ばれるものもあります。貼り風帯とは、裂地を垂れ下げるのではなく、天地の天の裂地部分に和紙を貼り付けることにより風帯のように見せるものです。
露とは、風帯の上下左右についている小さな飾り糸のことです。総のような綿糸であり、代表的な色としては白のほか、紫、浅黄(あさぎ)、萌黄(もえぎ)などがあります。
掛け軸の最も上部についている半月上の木のことで、表木(ひょうもく)とも呼ばれる部分です。内側の平らな側が巻板、下側の丸くなった側が山と呼ばれます。後述する軸木と同質のものが使用されます。
八双と掛け紐をつなぐための金具です。先端は釘状、上端は輪になっています。
輪になった部分に掛紐を取り付け、掛軸を掛けるためのものです。足を擦り合わせているように見える足摺鐶(あしずりかん)、輪の端部分が軽く曲げられている江戸鐶(えどかん)などの種類があります。
掛け軸を引っかけて飾るために取り付けられている紐部分のことです。掛緒(かけお)とも呼ばれます。
素材は、正絹のほか、絹に似せた正絹代用などがあり、重い掛け軸でも耐えられるように丈夫な素材が使われているのが特徴です。
単色の物が一般的ではありますが、柄物もあり、掛け軸の絵柄に応じる形で決められます。
掛け軸の下部についている掛け軸を巻くための軸になる木です。軸棒とも呼ばれ、主に杉の白太(しらた)で作られます。
掛け軸がまっすぐ下にピンと伸びるように重りとしての役割も持つ部分です。
中に鉛を入れることにより重しとしての役割を強めているものもあります。表具につつまれている部分であるため、表からは見えません。
軸木の先端部分に取り付けられている円形状の飾りのことをいいます。使用される素材は、象牙(ぞうげ)のほか、塗物、水晶、陶器、竹など、さまざまです。
掛け軸をしまう際は、この軸先を両手で持ち、くるくると巻いていくことになります。
種類は、大きく分けて3つです。軸先が太鼓のバチのような形に膨らんでいる「ばち軸」、まっすぐな「すぐ軸」、渦巻型になっている「うず軸」があります。格は高い順から、うず軸、ばち軸、すぐ軸です。
掛け軸の裏面のことを総裏と呼びます。
掛け軸の裏面や上部の損傷を防ぐ目的で貼り付ける薄い絹のことです。川俣絹(かわまたぎぬ)とも呼ばれます。
掛け軸の裏面の両側に貼る小さな紙のことをいいます。掛け軸は開いたり閉じたりする際、特に下部に負担がかかってしまうので、軸木の付け根部分を補強するのが軸助けの役割です。
上巻絹の上部右方にある細長い紙のことであり、八双に沿うように取り付けられています。書画の題名や作者の名前が書かれる部分です。
掛け軸の掛け方についても確認しておきましょう。適当に扱ってしまうと、しわが入ったり、破れたりしてしまうこともあるため、注意が必要です。
そもそも掛け軸はどこに掛ければ良いのかというと、基本は床の間と呼ばれる場所です。
床の間とは座敷にあって一段高くなっている部分のことをいいます。畳ではなく、木の床がある部分です。
掛け軸のほか、花や壺といった置物を飾るために使用されます。床の間がない場合は他の場所でも良いのですが、直射日光などが当たらない場所を選びようにしましょう。
掛け軸をかける際には、矢筈(やはず)と呼ばれる専用の道具を使用します。長い棒の先に先端が二股に分かれた金具がついた道具です。
掛け軸を掛ける際の全体の流れは以下の通りとなっています。
【作業の流れ】
掛け軸は下部に重みがあるため、壁に掛けて開く際に掛け軸を支えていた手を離してしまうと勢いがついて開き、破損してしまう恐れがあります。十分注意しましょう。
巻緒をほどく際は、巻緒を引っ張って掛け軸を転がすような形にならないように注意が必要です。片手で巻いた状態の掛け軸を持ち、もう片方の手で巻緒を引いてほどいていきます。
掛け軸を壁にかけるための矢筈は、ものによっては1,000円程度で購入可能です。矢筈を使うことなく、直接掛紐を持って壁の金具に吊るすことも不可能ではありません。
ですが、掛け軸を飾る床の間は神聖な場所であり、神様がいると考えられています。そのため、基本的に床の間に足を踏み入れるのはよくありません。
矢筈があれば床の間に入ることなく掛け軸を掛けられるようになるので、用意しておきましょう。
掛け軸を掛けてみたものの、位置が高すぎる、低すぎると感じる場合は「自在(じざい)」と呼ばれるものを使用して調整が可能です。自在掛けとも呼ばれます。
製品によって自在の特徴は異なるのですが、掛け軸の高さを調整するのに役立ちます。掛け軸をかける金具に縦長の金属や木でできた自在を引っ掛け、掛け軸は自在についているフックに引っ掛けるものが定番です。
自在についているフックは上下に自由に動くため、ちょうど良い高さに調整できます。
掛け軸の長さによっては上の空間、または下の空間が空きすぎてしまうので、そのまま飾るとバランスが悪くなってしまう掛け軸も自在を持っておくと細かい調整が可能です。
掛け軸は、しまう際にもいくつか注意しておきたいことがあります。正しいしまい方を確認しておきましょう。
掛け軸を壁から外す際も、掛ける際と同様に矢筈を使用します。矢筈を使用することで床の間に足を踏み入れることなく掛け軸を外すことが可能です。
【作業の流れ】
掛け軸を巻き上げていく際は、左右のバランスを確認しながら、どちらか一方に偏らないように注意が必要です。特に畳の上に置いて掛け軸を巻こうとすると、左右のどちらかに寄りやすくなります。
きれいに巻くためにも掛け軸を壁に掛けた状態で巻いていくのがおすすめです。最初のうちはゆるめにゆとりを持たせて巻くことできれいに巻き上がります。
最後に巻紙の上で巻緒を結うのは、巻緒のあとが掛け軸につかないようにするためです。
まず、掛け軸をしまうのは、よく晴れていて湿気の少ない日にしましょう。掛け軸が水分を含んだ状態でしまってしまうと、保管中にカビが生えてしまう恐れがあります。
梅雨の時期にしまう場合は、晴れた日を選んで何日か陰干ししてからしまうのがおすすめです。
それから、しまう際は掛け軸に触れることになるので、手は清潔な状態にしておきましょう。汗がつくとしみになってしまう可能性があるため、このあたりにも注意が必要です。
掛け軸は同じものを長く掛けっ放しにしておくと乾燥が進んで劣化してしまうこともあるので、何本か定期的に交換しながら楽しむと良いでしょう。長期に渡って掛けることなく保管する場合も、年に1~2回程度は空気が乾燥した日を選んで虫干ししてみてください。
いかがだったでしょうか。掛け軸の各部分の名称について紹介しました。それぞれが持つ役割などについてもご理解いただければと思います。
名称を知っておくと、掛け軸について他の人と話をする際などにも役立つでしょう。奥が深い掛け軸の世界をさらに楽しむためにもぜひ覚えてみてください。
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この記事の監修者
義村 安悟(よしむら あんご)
《経歴》
美観堂 大阪本店店長 査定歴15年
《コメント》
複数の店舗で店長としての経験を活かし、身の回りのさまざまなジャンルのお品物を丁寧に査定しています。特に古美術品の買取においては、作品の歴史や芸術的価値、作家や時代の背景を考慮して査定を行っており、状態だけでなく市場の動向を踏まえ、公正で適正な価格設定を心がけております。
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